クララについて



和名:クララ (マメ科)

学名:Sophora flavescens (Leguminosae)

植物体の特徴:
 草丈1メートルを超える多年生草本で、日当たりの良い山野に自生する。初夏に穂状花序を出し白色の花を咲かせる。葉は奇数羽状複葉で、小葉は長さ3cm、幅2cm。地下に30cmを超えるゴボウ状の根を垂直に伸ばす。この根を乾燥したものを漢名「苦参(クジン)」と称し、苦味性健胃薬として利用する。また、殺菌作用が強いため、昔はウジ殺しに使われた経緯がある。有効成分は、マトリンなどのアルカロイドとされるが、非常に多様なプレニル化フラボノイドを含み、これらの生理活性も注目されている。


クララ培養細胞の特徴:
 やや黄色味を帯びた懸濁培養細胞。MS培地にて継代培養される。やや固まり状の細胞となっており、生長はタバコやシロイヌナズナなどに比べるとやや遅い。以下に述べるプレニルフラボノイドの生産に関しては、誘導系ではなく、構成的に生産している。主に細胞壁に分泌されていることが実験的に証明されている。



二次代謝の観点からの利点

アルカロイド:
 マトリンやマトリシンは特有の生合成経路より合成されるアルカロイド。この培養細胞は、最終産物としてこれらの化合物を蓄積することは無いが、マトリン系アルカロイドの生合成に関係するアミノ酸経路の複数の生合成遺伝子は発現していることが予測される。このように、物質として蓄積が認められなくても、酵素活性はあるため、生合成研究材料として有用な例は数多くある。むしろ植物細胞にとっても有害な二次代謝産物が蓄積していないほうがメリットがある場合もある。

フラボノイド:
 ナリンゲニンを中心とした基本的な骨格のフラボノイドを生産する。この細胞の生産するフラボノイドの多くは、そのままの形ではなく、芳香環がプレニル化されている。もっとも主たるプレニルフラボノイドは、sophoraflavanone G。この化合物には様々な生理活性があり、注目されている。代謝経路としては、シキミ酸経路、および酢酸マロン酸経路の生合成遺伝子が高発現している。

イソプレノイド:
 植物の常成分であるファイトステロールのほかに、上記フラボノイドの修飾基としてdimethylallyl 基や、特徴ある枝分かれ構造を有するC10ユニットであるlavandryl基が供給される。これがフラボノイドに結合したプレニルフラボノイドは多量に培養細胞でも生産される。なお、このプレニル基は非メバロン酸経路由来であることがトレーサー実験により証明されているため、本経路の代謝酵素遺伝子の発現は高いものと期待される。また、lavandulyl基の生合成にかかわる遺伝子は未同定だが、EST内に存在することが期待される。

リグニン:
 クララは草本ではあるが、多年性の根の部分や茎の下部は木質化する。木質化に関連するリグニン生合成遺伝子のは、上記フラボノイドの生合成と共通する部分が多く、実際、フェニルプロパノイド系遺伝子の発現は高い。


輸送の観点からの利点

  プレニルフラボノイドなど、二次代謝産物の細胞外への排出が証明されているところに、クララ培養細胞の大きな特徴がある。従って、フラボノイドの分泌に関与するESTの存在が期待される。さらに、生合成過程で中間代謝産物がオルガネラ間を移動していることが実験的に示唆されているため、代謝産物の細胞内膜輸送に関与する輸送体遺伝子の存在が期待される。また、マメ科ということで、窒素固定に関与する根粒バクテリアとの相互作用に関与する物質輸送系に必要な輸送体遺伝子がこの培養細胞で発現している可能性もあり、遺伝子資源として高いポテンシャルを有する材料である。
   
 * クララの培養細胞は、東洋大学生命科学部 山本浩文教授よりご提供いただいたものです。この場をお借りして深く感謝いたします。
  
参考論文